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魂の7番勝負最終局放送直後に書かれた記事です。
魂の7番勝負、略して魂7。
ついに最終局まで放送され、全ての対局の結果が出ましたね。
近藤五段と木村九段の対局となった第七局について、書いておきます。
目次(もくじ)
気になる結果ですが、木村九段が勝ち、魂の7番勝負は若手の6勝1敗。
トップ棋士側が一矢を報い、ベテラン勢の面目が保たれた格好となりました。
近藤五段は、それまで若手側が全勝だったのに敗れてしまったことは残念に思いつつも、団体戦としての勝利は嬉しいと言っておられました。
なかなかドラマチックな展開となった魂の7番勝負でしたが、これを機会に若手棋士同士、あるいはベテラン棋士同士の絆が深まったかもしれませんね。
それはともかく、AbemaTVさんの素晴らしい企画に改めて感謝しつつ、最終局を振り返ります。
千葉県出身者同士の対決となった近藤五段-木村九段戦。
ここでは、対局とその大盤解説のだいたいの雰囲気が伝わればと思います。
ゲストや戦形についても触れます。
木村九段のお弟子さんで、加藤一二三先生の現役最終局の相手だった高野智史四段が解説でした。
近藤五段サイドの解説は、同じ所司一門の松尾歩先生でした。
今年九段に昇段した木村九段は、「解説名人」の異名にふさわしい、優しくて分かりやすい解説がファンに人気です。
お弟子さんの高野四段にとって、練習将棋にたくさん付き合ってくれる優しい師匠とのこと。
「木村先生が師匠でなかったらプロになれなかった」発言もありましたよ^^
放送では、埼玉出身の高野四段が千葉出身の木村先生に入門した経緯も話されていました。
聞き手の安食女流によれば、高野四段の奨励会時代にはよく高野四段を心配していた優しい木村師匠。
素晴らしい師弟関係が生まれる背景には、不思議な縁があるのかもしれませんね。
松尾歩先生の方は、落ち着いた渋い雰囲気の解説がよかったですね。
羽生先生と竜王戦の挑戦権を争った松尾先生には、すでに貫禄があります。
松尾七段と高野四段のダブル解説は落ち着いた良い空気感が出ていました。
なんと将棋連盟会長である佐藤康光九段が登場し、コメントと解説をしてくれました。
松尾七段の言葉を借りるならば、「いつも通りの誠実なコメント」でした。
佐藤康光の心情は、団体戦としてはトップ棋士に意地を見せてほしいけれど、一緒に将棋の勉強をしている近藤五段にも頑張ってほしい、という感じのようでした。
感想戦での言葉によると木村先生は、相掛かりになることを予想していたそうでした。
実際には横歩取りになりました。
近藤五段は最近相掛かりの勝率が下がっているので、避けたとのことでした。
横歩取りの後手8五飛車戦法だったか、後手8四飛車戦法だったか忘れてしまったので、今度チェックしなくては。
棋譜を記憶を頼りに終盤の投了図まで再現した感じだと、後手8五飛車戦法だったのですが。
横歩取りは囲い方が以外とたくさん種類があるのですが、先手は通常の「中住まい」で後手も玉の位置は5ニでしたが、7ニ銀、6一金型でした。
横歩取りはよく指される慣れた将棋であったこともあってか、全体的に木村先生は堂々としていて、終盤も落ち着いていました。
魂の七番勝負は今回も見ごたえのある戦いでした。
前回の第六局はちょっと専門的で深すぎて難しかったですが、今回はだれが観ても面白いです。
もちろん、将棋の内容は、安食女流の「難しい将棋だったんですね」という最後のコメントの通り、容易ではありませんでしたが。
お互い色々と工夫しつつ激しく攻めていて、楽しい勝負でした。
解説の棋士たちからは、ところどころで、「木村九段らしい」という言葉がでました。
堂々と自分らしい将棋を終始指す木村先生に、さすがの近藤五段も押されてしまったわけですね。
どのくらい堂々としていたかというと、次のような解説者コメントがあったほどです。
「この手は、かかってこい、という感じの手ですね。」
若手の実力者である近藤五段に対して、来るなら来い、という強気な対応をしたのですね。
今回の将棋は、全体的に手のつくり方が難しい将棋だったことは、近藤先生の局後の感想にもある通りでした。
そのような状況の中でも、手の殺し合いというよりは、攻め合いのような展開になったのは、木村先生のある大胆な手によるものです。
それが、飛車をぶつける後手5四飛という手です。
実はこのとき先手の角が7五にいました。
後手の玉は5ニにいて、5三地点に他に効いている駒はありませんでした。
ですので、後手5四飛を、先手が同飛車(先手の飛車は5六にいました)ととると、結構後手玉は怖いことになります。
後手5四飛にかえて、6ニ金などとするのが普通のように思える状況でした。
それを自玉の危険を顧みずに飛車をぶつける指したので、とっても大胆でした。
近藤先生も同飛車と応じ、端(1筋)で歩の手筋を使って敵陣に飛車を打ち込みます。
後手も飛車を打ち込み、一気に終盤に突入していきました。
大胆さばかりを強調しましたが、飛車がぶつかる前の2三歩や、飛車を打ち込まれたときの2ニ角のような受けの手も本局のポイントです。
「千駄ヶ谷の受け師」の異名の通り、相手の攻めを無力化する受けが光りました。
感想戦は、特に序盤は木村九段が視聴者にも分かりやすいように配慮されているようで、分かりやすかったです。
木村九段は解説のうまさに定評があり、誰が呼んだか、「解説名人」というあだ名があります。
感想戦でもその本領を発揮していました。
木村先生は、はっきりとして分かりやすい解説のほか、自嘲気味のぼやきにも魅力があります。
序盤、9筋の端歩の突きあいが、後手にとって損だったそうで、対局中ずっと後悔していたそうです。
「負けたらこれが敗着だった」という言葉さえありました。
本譜のように先手が7五に角を打ったときに、後手から角を追っても9筋に逃げられてしまうというのがその理由らしいです。
正直、このあたりは専門的すぎて実感をもって分かるのが困難ですけれど(笑)。
さすがプロ、としか言いようがありませんね。
感想戦では、木村先生が自分の読みや対局時の感想を述べつつ、ぐいぐいと近藤五段に考えを聞いていく場面も見られました。
このあたりは、勝負に勝ったこともあり、とても貫禄がありましたね。
一方の近藤五段も、感想戦では様々な読み筋を披露してくれ、本譜に現れなかった水面下での攻防が垣間みられました。。
飛車交換後の5六歩は、木村先生と松尾先生を驚かせました。
5五歩から後手の玉頭を攻めていこうとする手ですね。
先手にとっても玉頭なのですが!
また、本譜で近藤五段が指した3六歩に、木村九段は感心したそうです。
これは後手の2六飛車の狙いを緩和しています。
2六飛は2九の桂馬を狙いつつ、7六の歩をとって先手の角を脅かそうという手です。
本譜では、この3六の歩で後手の桂頭を狙い、後一歩のところまで後手玉を追いつめました。
結局、木村九段が指した4一桂がまたしても「受け師」らしい手で、先手を困らせました。
最後の方は、後手が自陣にいた角をうっかり動かそうものなら詰んでしまうような、際どい状況で後手がギリギリしのぎきり、先手に受けがなので近藤五段の投了となりました。
局後木村九段のコメントは、格好良いコメントでした。
まず、魂の7番勝負のこれまでの結果に関しては、「他人の結果を気にしても仕方がないので、自分が頑張る」という姿勢でり臨まれたそうです。
番組終了時には、「自分の立ち位置をはっきりさせないと、世代交代がどうとかいっても仕方ないので」これからも頑張っていくというような台詞がありました。
木村先生は将棋に対して素直で真摯だから強いのだということを、この企画を通して再認識できました。
藤井四段が唯一格好良いと言った棋士は行方先生ですが、きっと放送を観たら木村先生のことも「格好良い先生」リストに加えてくれるでしょうね。
私的に今回の最終局が、魂の7番勝負のシリーズ全体を通して最高だったと思います。
私が横歩取り戦法を好きなせいもありますが^^
7番勝負の集大成に相応しい勝負と感想戦、そして大盤解説だったと思います。