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前回に続き、「詰将棋の世界」の記事です。
前回は数学セミナー2017年9月号掲載の第6回について書きました。
今回はその次の号、2017年10月号に掲載の第7回です。
テーマは第6回に引き続き「無駄合い」でした。
第7回連載もいつも通り、第6回で出題された詰将棋の問題の解説から始まりました。
解説から、第6回出題の2題は実は、玉方の合駒を打つ手を良く読む必要がある問題だったことが分かります。
連載本文のテーマに合った問題を用意できるというのが、実に見事ですね。
第1問の第一手の候補はどれも、金を動かして角で空き王手する手でした。
しかし、正解以外はうまい合駒があって、攻め方の駒がとられてしまいます。
唯一正解手順においてのみ、合駒は無駄合いになります。
有効な合駒と無駄合いでは、雲泥の差だということが実感できる問題でした。
第2問は中々派手で面白かったです。
5手詰めの作品なのですが、なんと攻め方が空き王手を3連発して詰ますというなんとも景気が良い正解手順でした!
解説に出てくる言葉の表現も格好良かったです。
「角をスイッチバックさせることで飛車と角の両王手がかかります」みたいな感じで。
最後は飛・角・馬の効きが「レーザー光線のように張り巡らされた」状況で詰め上がります。
実に爽快な詰将棋なのですが、この作品の面白さはそれだけではありません。
実は途中、玉方の応手として、手ごわい手が考えられるのです。
その手ごわい手とは、玉と飛び道具の間に持ち駒を打つ「中合いの手筋」です。
この手筋は無駄合いではないので、対応を誤ると逃がしてしまいます。
結局攻め方にもそれを上回るうまい手があって、本手順よりも短い手数で詰んでしまいます。
だからこの手は正解手順には現れないのですが、このような水面下の変化も、この作品の面白さです。
この変化を読み切ってはじめて、本当の意味でこの問題を解き切ったと言えるのだそうです。
こういういくぶんシビアな考え方・姿勢は、指し将棋のときにも意識したいですね。
実戦で出た手順以外の変化も読み切ってはじめて本当に勝ちと言えるのだ、みだいな感じで^^
第7回では、無駄かどうか微妙な合駒の例として、「原型復帰型」というタイプが紹介されます。
この原型復帰型が登場する作品には、作家が発表を控えるタイプと、積極的に発表されるタイプの2種類があるそうです。
原型復帰型合駒とはどのようなものかについて、はじめに例を一つあげて説明がされています。
これは、王手をかけていくうちに、もとの局面に戻ってしまうというものです。
盤面はもとに戻るのですが、持ち駒にのみ変化が生じます。
途中の局面で、歩の合駒が打たれ、攻め方はその歩をとります。
歩は2枚打たれ、攻め方はどちらもとり、1枚は打って使いますがもう1枚は持ち駒に残ります。
結果として、もとの局面に戻った時点で攻め方は、1枚初期配置に比べて歩が多い状態になります。
持ち駒に変化が生じているので、指し将棋の千日手とは違いますね。
この変化は玉方の持ち歩が尽きるまで続ければ、最終的に詰ますことができます。
でも駒余りになります。
つまり、これらの合駒を「無駄合」扱いしなければ、駒余りになってしまうので詰将棋として成立しないわけです。
逆に「無駄合」と見なすのであれば、詰将棋として成立します。
その「無駄合」とみなすかどうかで、意見がわかれるのだそうです。
なるほど、これは判断に迷いますね^^
これが、「原型復帰型合駒」です。
なんとなく、ニーチェ哲学の「永遠回帰」を思い出したのですが、私だけでしょうか?
もっとも、原型復帰型合駒では持ち駒に変化が起きるので、永遠に繰り返されるわけではありませんが。
原型復帰型合駒は、無駄合かどうか判断がわかれると書きました。
通常そのような微妙な作品は、発表されません。
しかし面白いことに、原型復帰型合駒を含むけれど例外的に発表されるものもあるそうです。
それが「馬鋸」です。
「うまのこ」と読みます。
「馬」は、角が成った駒でしたね。
馬鋸では、馬がのこぎりの刃のように、ジグザグに動きます。
ジグザグに動きながら、王から遠ざかっていきます。
王から遠く離れたところで駒を拾い、その後はそれまでとは逆向きに王に近づくようにジグザグ運動をします。
王に馬か近づいた状態で、さきほど拾った駒を使ってとどめを指しに行きます。
これが「馬鋸」で詰ます手順です。
無駄合いと何の関係があるかというと、次のような感じです。
そもそも、馬がジグザグに動けるのは、玉方が合駒を打たずに、馬の王手を避けるからです。
そこで、避けずに合駒を打ってしまうと、馬が玉方に近づかざるを得なくなるのです。
そういう風に合駒を打ち続けていくと、初期配置に戻ってしまうわけですね。
持ち駒だけは変化しますが。
これって、どこかで聞いたような話ではありませんか?
そうです、まさにさきほど説明した「原型復帰型」の状況ですね。
合駒をしても最終的には詰むのですが、手数がかなり伸びます。
紹介されている馬鋸の作品は、85手詰めですが、合駒をすると400手近いそうです。
それはともかく、馬鋸は作品として見事なものが多いため、原型復帰型の変化があるにも関わらず多くの作品が発表されているそうです。
例外的に合駒をする手を「無駄合」扱いするという形で、作品としての成立を認めているわけですね。
最近では、馬鋸を含みつつも、玉方が合駒を打っても「無駄合」かどうか微妙なグレーゾーンが生じないような工夫がされた作品もあるのだそうです。
詰将棋も色々と現代的に進化しているのですね。
いかがでしたか?
今回ご紹介した、詰将棋の世界第7回を読んで、新たな世界を見た思いがしました。
私たち将棋ファンにとってはとても身近な存在である詰将棋。
でも実は知らないことがたくさんあったのですね。
(毎回そう書いている気もしますが。。。)
連載第7回は「詰将棋の世界」史上一番面白いと思います。
全部面白いのですが、もしも試しに1冊だけ読んでみたい方は、第7回が載っている数学セミナー2017年10月号からまず試してみてはいかがでしょうか?
私の文章だけのレビューでは分かりにくいかと思いますので、是非「数セミ」で図面と解説を見られることをおすすめしておきます^^
ここで取り上げなかった話題も書かれているのできっと楽しめるはずですよ^^