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「フリークラス宣言する理由」の話です。
将棋のプロ棋士が「フリークラス宣言」をすることがあります。これは、ある意味では引退宣言に等しいもので、対局料や給料も減ってしまう可能性があるため、一見するとかなり損なような気もするのですが・・・。
今回は、そんなフリークラス宣言のメリットについて、考えてみましょう。
目次(もくじ)
この記事を読みにきて下さった方は、すでにプロ将棋に詳しいかもしれませんが、
念のため最初に、詳しくない方のためのイントロダクションを少々。
藤井聡太七段や師匠の杉本八段の活躍で、
一般にも注目されるようになった「順位戦」という棋戦がありますね。
その順位戦は将棋のプロ棋士なら全員が参加しているというわけではなく、
「フリークラス」という順位戦不参加の棋士のクラスが存在しています。
フリークラスに所属するようになる経緯は、何通りかあります。
フリークラス棋士になる経緯についてはこちら => フリークラス棋士になる経緯は3通り?順位戦参入や引退の規定は?
これまで順位戦に参加していた棋士が、自分の意思で所属を決めるケースが多いです。
その、フリークラスへと転出する意思を表示することを、「フリークラス宣言」といいます。
200名以上の現役棋士たちの中では、順位戦に参加している人が、圧倒的な多数派です。
わざわざ行こうとは思わないクラスなわけですね。
では、プロの将棋棋士にとって、フリークラスへと移動することは、何を意味するのでしょうか?
棋士の多くは子どもの頃から、将棋界の頂点である、「名人」というタイトルに憧れていたはずです。
なお、棋士によっては、「竜王の方がカッコいいじゃん」という意見もあるとかないとか・・・(笑)。
フリークラス入りしてしまうと参加できなくなる「順位戦」という棋戦は、名人戦の予選というべきものです。
そして、これが重要なのですが、「宣言」によるフリークラス転出は、一時的なものではないのです!
つまり「復帰」ができないので、二度と順位戦で戦えなくなるので、
フリークラス宣言は名人になる夢をあきらめること、ということになってしまいます。
プロの将棋棋士のメインの仕事は、公式棋戦での対局です。
公式戦で指すと、勝っても負けても対局料がでます。
トーナメント方式の棋戦では、一度でも負けると、「また来期」となってしまうこともあるので、
初戦敗退者は1年に1局しか対局できなかったりします。
でも、ありがたいことに、順位戦はそうではないのです。
順位戦はリーグ戦で、年間に10局くらいは対局できます。
詳しいことは難しいのですが、順位戦からの対局料というのは、
「固定給」みたいなものらしいです。
対局がない月でももらえるようになっているので、
順位戦にさえ参加していれば、どんなに負けていても無収入の月はない、ということになりますね。
正確には、順位戦の対局に対する報酬が、固定給の大部分を占めている、という感じです。
将棋棋士の対局からの収入見積もりについてはこちら => 将棋のプロ棋士の年収が気になる?対局料や固定給を推定せよ
わりと前の記事なので、かなり読みにくいかもしれませんが(汗)。
つまり、フリークラスに行ってしまうことは、固定給(の大部分)を放棄してしまうことを意味します。
フリークラス宣言で一番こわいことは、引退までの年数が確定してしまうことですね。
フリークラス棋士のなり方は色々あると述べましたが、
で共通しているのは、原則として、引退までの期間が決まっているという点です。
将棋界では、フリークラスでなければ、
普通の職業であれば定年とされるような年齢を超えても、
現役棋士でいることも、制度上可能
です。
(例えば、あの伝説の加藤一二三九段は、77歳くらいまで現役棋士でした。)
フリークラスから抜け出して順位戦に戻ることができれば、
引退までのカウントダウンがリセットされるのですが、
先ほども話にでたように、
「フリークラス宣言」棋士は、
順位戦への復帰が二度とできないという規定
になっています。
これが、フリークラス宣言は実質上の引退宣言である、
という風にいわれる理由なのです。
このようにみると、悪いことばかりのようにも思えるフリークラス宣言。
宣言を行う理由なんてないのでは、とも思えてきますよね(笑)。
でも、わざわざ宣言によるフリークラス転出をする棋士が存在することからわかるように、
メリットがあるのです。
どのようなものかというと、大きくわけると、2つあります。
一つは、すでに引退の危機にある棋士の場合、引退までの期間が延びる、というもの。
もう一つは、順位戦の対局がない分、他のことに時間を割くことができる、というものです。
フリークラスに行く経緯の一つに、順位戦の一番下のクラス、
C級2組順位戦での成績下位によって、落ちてしまう、というのがあります。
もう少しだけ正確にいうと、「降級点」というものを取り続けるとフリークラス落ちします。
順位戦からフリークラスに陥落した場合、プロの公式戦の対局で好成績を叩き出さなければ順位戦復帰できません。
その成績は相当大変なので、一度フリークラス陥落したらそのまま復帰できずに引退、となってしまうこともあり得ます。
引退までの期限は、順位戦からフリークラスに陥落した場合と、宣言によって転出した場合で違います。
転出の方が、引退までの期間が長いので、順位戦で陥落しそうな場合、
戦った残留を決める目を捨ててでも、自分からフリークラス棋士になる選択をする、
というのは十分に合理的といえます。
ただ、引退までの時間は長くなるにしても、
順位戦がない分、収入は少なくなるわけですよね。
それをどうやって補うのでしょうか?
他の棋戦で順位戦の分も勝つ、というのもありですが、
実は、将棋の棋士が収入を得る手段は、対局だけではありません。
将棋のプロとしての高い専門性があれば、色々なことができるのです。
どういうものがあるのかというと、次の通り。
最近だと、Youtubeをやっているプロもいますね。
棋士の才能って、将棋だけにとどまらなくて、
引退後、将棋以外のことで成功する方もいたりします。
このように、棋士にも、競技としての将棋だけでなく、
様々な切り口での将棋に関する発信だったり、
初心者やプロ志望の子への指導だったり、
将棋教室を支えるための経営だったり、
完全に将棋以外のことだったり、色々な方面に得意なことや興味もてることがあるわけですね。
あと、将棋連盟の幹部として将棋界のために尽くす、とかもありますね。
対局以外のことに時間を使ったり集中しやすくなる「フリークラス宣言」という制度には、
そういうことがやりやすくなるメリットがあると考えられます。
フリークラスというクラスに棋士が自らの意思で移る、
「フリークラス宣言」による転出についてまとめました。
一見デメリットだらけのような「宣言」に、メリットはあるのか、という観点でした。
フリークラス制度は、引退とも関わってきて、デリケートな問題である上に、
規定が色々とややこしいので、正直、中々クリアな記事が書けずにいました。
関連する「順位戦」の仕組みとかも、将棋が詳しくない方に説明するのは大変ですよね。
過去の記事と今回の記事と合わせて参照することで
少しでも分かりやすくなっていたら幸いですが、いかがでしたか?