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2017年6月29日(金)、第31期竜王戦決勝トーナメントの対局が行われました。
戦ったのは、4組優勝者の増田康宏六段と5組優勝者の藤井聡太七段でした。
増田六段といえば、藤井七段が29連勝の記録を達成したときの対局の相手です。
そのときも竜王戦の本戦が舞台でした。
約1年ぶりとなった2人の公式戦での対局では、増田六段が勝ち、竜王戦本戦の次の対局に進みました。
その将棋は序盤・中盤・終盤と、魅せる将棋でしたが、特に序盤は色々な意味で印象的でした。
観る将、指す将を問わず、将棋ファンであれば、チェックしておきたい内容と思うので、記事にさせてください^^
目次(もくじ)
今回は、2017年度の竜王戦本戦での対局と先後手逆となりました。
つまり、増田六段が先手でした。意外な序盤となりました。
本局は最初の方から、かなり意外な展開でした。
詳しい将棋ファンにはよく知られているように、増田六段は「矢倉戦法」を指しません。
近年の将棋界で、相居飛車の戦型として、矢倉に代わって台頭してきたのが「雁木」です。
増田六段はその雁木を愛用することで知られています。
また、矢倉激減の原因とされる、「急戦矢倉」の使い手でもあります。
実際、「岡崎将棋まつり」というイベントでは、後手急戦矢倉で、佐々木勇気六段に快勝しています。
「矢倉は終わった戦法」と考えていることを公言している増田六段が、「先手77銀」という、矢倉囲いを目指すような手を指したのは、かなり意外であると、誰もが感じたことでしょう。
先手の右側の駒組みは、「雁木」のときにも現れるようなものだったので、いつもは67にいる銀が、77に一つずれたような違和感を感じました。
もっとも、先手の6筋の歩は「66歩」と突いていないのでその手も雁木と大きく違うのですが。
後手番の藤井七段の方も、5筋の歩を突くよりも先に「52金」と金を上がる手を指すなど、工夫を見せました。
これには、右四間飛車などからの急戦の可能性を残す意味があったと思います。
そうした細かいやりとりも詳しく観賞すると面白そうですね。
それはともかく、本局における後手の最大の工夫は、65歩と位をとった手ですね。
この手の意味は、先手が「66歩」から「金矢倉」に組む手をなくしたこと、そして後手が将来的に角を64にもっていって先手の飛車の「こびん」を狙っていく作戦をとりやすくしたこと、などにあると思います。
この後手65歩という手の後に、先手が指した手が驚きの手であると同時に、本局のポイントとなる先手の工夫でした。
先手はなんと、77にいた銀を68に戻す、「68銀」という手を指しました。
この手は色々と驚きです。
まず、先手はこの手により、「2手損」となります。
はじめに銀を68から77に上がった手と、77から68に戻す手と、2手分無駄になっているからです。
その2手の間に、後手は6筋の歩を伸ばしていっています。
さらに、先手の角は88にいたので、銀による8筋の守りがなくなって、後手からの8筋の歩の交換(いわゆる飛車先交換)ができる形となりました。
(飛車先の歩交換はした方だけが歩を手持ちにできて得になるので、防いでおくのが普通なのです。)
もちろん、わざわざ損をしてまで先手が「68銀」を選択したのは、それ以上のメリットがあるからでした。
88にいる先手の角が、遠く後手陣をにらんでいて、攻めに使えるからです。
これは、後手の角がいわゆる「引き角」の形で使われていて、先手玉に直接のにらみはなかったことと対照的です。
結局のところ、増田六段の狙いは、矢倉に組むようなそぶりをみせつつ、相手が通常の「相矢倉」のつもりで安心して矢倉を組み始めたところを、急戦矢倉的な「68銀」の形に戻して一気に攻め込む、というものだったといえそうですね。
大がかりなフェイント作戦、ともいえるかもしれません。
中盤戦からは、増田六段が一気に攻めていき、激しい展開となりました。
中盤で、序盤戦と関係があってポイントとなるところはどのような部分だったか、という観点からまとめてみます。
先手も急戦調に手を進めたものの、例えば右四間からの「矢倉崩し」のように一気に後手の矢倉を突破する手があるようにはみえませんでした。
先手の金はまだ49にいて、58金や48金などと駒組みをもう一つ進めるような手もあったと思います。
しかし、先手は5筋から仕掛け、先手の角で5筋の歩を交換しました。
ここから49金型であるのを活かして「58飛車」のように、「矢倉中飛車」にする手も考えられるところでした。
ただ、後手からも8筋からの攻めがあるので、ゆっくりとはしていられないところ。
先手は、中飛車で中央を狙うよりも、さらに厳しい手を指して行きました。
それが、「35歩」の仕掛けでした。
同歩に34歩の「たたき」が可能となったのが、5筋の歩交換の効果でした。
この手により、先手の大駒が一気にはたらきはじめました。
後手は先手の飛車先交換に対して、「23銀」の「銀冠」の形にするなど、懸命に対処しましたが、かなり陣形が乱れてしまいました。
感想戦では、後手が一気に攻めつぶされる変化もでてきていたので、先手の攻撃にはかなりの迫力があったといって間違いないでしょう。
先手は右からだけでなく、左側からも攻撃してきました。
やはり効果的に敵玉を追いつめるには、「挟撃」が有効なわけですね。
後手は、「52金」「62金」「73桂」の形だったので、73の桂馬の頭の守りが弱い状態でした。
その弱点を突く先手「75歩」が厳しい手でした。
金や銀で受けるのは玉の守りが薄くなるし、飛車で受けるのも結構こわい。
実戦では84飛車と「浮き飛車」で受けました。
後手は居玉だったので、「王手飛車」の筋などもあって、かなり受けにくい展開になりました。
中盤の終わりから終盤にかけての、(先手からみて)左側の攻防もすごいものがあり、本局の重要なポイントなのですが、今回の記事の目的は主に序盤戦について語ることでしたので、ここまでとします。
今回は、竜王戦決勝トーナメントの、増田-藤井戦の序盤を中心に、ポイントや感想をまとめておきました。
雁木ではなく矢倉の将棋になったものの、相矢倉というよりは急戦の将棋になった、というのが本局の序盤から中盤入口の流れでした。
今回も、中継をみたときに棋譜をとったりしなかったので、結構漠然としてしまっていますが(汗)。
将来有望な若手棋士同士の歴史的な勝負についての感想を、一つでも多く残しておきたい、そのようなスタンスで急いで記事執筆しました。
本局は終盤も「先手95角」などのプロの技がみられた印象的な将棋でした。
でもやはり、序盤の増田六段の作戦が今後の将棋界や将棋の定跡にどのような影響をもたらすのかが、個人的には興味あるところです。