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前回のテーマは「頭の中の将棋盤」でした。
どちらかというと我々アマチュアの上達法に関する記事でしたね。
今回は、プロ棋士と脳内将棋盤というテーマで、書いてみます。
目次(もくじ)
対局中に目が将棋盤の方を向いていないことがある棋士というのは、意外といます。
不利になってしまって戦意を失ってしまったのでしょうか?
いいえ、彼らはプロですので簡単にやる気を失うことはありません。
それに、優勢でも盤を見ていないこともあります。
実は、彼らが時々将棋盤を見ていないのは、脳内将棋盤のおかげでその必要がないからなのです。
魂の7番勝負では、解説の合間にそのような話題が取り上げられていました。
具体的に言うと、第4局の八代-森内戦と第6局の増田-三浦戦でそのような話がでました。
その話については、後で少し書きます。
ともかく、実際の盤ではなく頭の中の盤を見ているのだ、という点をまずはおさえておきましょう。
そして、盤から目を話しているからといって、休憩しているわけではなく、一生懸命読みに集中しているわけですね。
それではいよいよ、魂の7番勝負の脳内将棋盤トークを振り返っておきましょう。
魂の7番勝負の八代-森内戦での八代六段は、右斜め下を見ているシーンがありました。
その視線はちょうどペットボトルの飲み物が置いてあるあたりに向いていました。
これについては、聞き手の山口恵梨子女流二段と解説の西尾先生が楽しそうに語っていました。
「どの種類のお茶を飲もうか迷っているのでしょうか?」「いいえ、頭の中の将棋盤で一生懸命手をよんでいるんです」、みたいなやりとりがありました。
山口女流と西尾先生の頭の中の将棋盤トークは、それ以外にもあって面白かったです。
「頭の中の将棋盤の色は?」とか、「実際の将棋盤と頭の中の将棋盤は混ざらないのか?」みたいな面白い質問も山口女流から出てきました。
西尾先生の返答も面白かったです。
八代六段の場合は、相手の森内先生が局後におっしゃっていた通り、相手の無理攻めのおかげで、終始優勢でした。
だから、余裕があったから脳内将棋盤だけで十分だったのかもしれません。
いくらプロの棋士でも、まさか難解な局面では、脳内将棋盤ではなく実際の盤を見るでしょうね。
と、思ったら必ずしもそうではないみたいなのです。
魂の7番勝負の増田-三浦戦では、三浦先生が脳内将棋盤を使っていました。
三浦九段は盤と違う方向に目線を向けていました。
ときどき横や上の方をちらっと見たり、体を向けるのが特徴的でしたね。
斜め下とか盤の下の方を見ていることもあったと思います。
解説者から、プロは頭の中に盤をイメージできるので、将棋盤を見なくても手が読めるのです、と説明がありました。
増田-三浦戦は中盤が形勢判断の難しい将棋でしたが、感想戦の感じから、増田四段が敵陣に金を打ち込んだあたりからはっきり優勢になったように思います。
その前の中盤の仕掛けから終盤の入り口までは、形勢判断の難しい将棋でしたが、後手の三浦先生はあまり自信がなかったそうです。
そういう難解な局面でも三浦九段は、実際の将棋盤以外に目を向けて脳内将棋盤のみで考えているシーンも多かった印象です。
アマチュアからすると、盤を見ないのは自転車の手放し運転みたいなもので、余裕の現れかと思ってしまいます。
でもプロの場合はそうとは限らず、正念場で集中したいときにも将棋盤から目を離すのですね。
とはいえ、最終盤の局面では、秒読みだったこともあり、さすがの三浦九段も、将棋盤を凝視していました。
最後の方は、空中に視線を向けることがありましたが、 その場面ではすでに体勢が決していました。
自玉の寄せを確認し、敗北を納得するために、脳内将棋盤を使ったのだと思います。
ですので、プロでも終盤の本当に大変な局面で、持ち時間のないときは、将棋盤から目をそらさないのが普通なのかもしれません。
そういう意味では、やはりプロも私たちと同じ人間なのだと安心しますね。
ついでに佐々木勇気六段のことも書いてしまいましょう。
藤井四段の連勝を止めたこともあり有名な佐々木勇気六段。
佐々木六段が対局中に見せる、斜め上を見上げる姿勢はすでによく知られているかもしれませんね。
魂の7番勝負第ニ局では、このスタイルが佐々木六段の特徴であることが解説者により指摘されていました。
三浦先生の場合は目を動かして上の方を見ているのに対し、佐々木先生はどちらかというと顔全体を斜め上に向けている感じです。
この見上げる仕草をしている際に、佐々木六段は脳内将棋盤を使用していると考えられます。
盤面を見ないで手を読む棋士は他にもいます。
また、それとは逆に、対局時にはほとんどよそ見(?)をしない棋士もいます。
佐藤天彦名人の対局中の体勢は、ユニークです。
おそらく他の棋士は佐藤名人と同じポーズはとらないでしょう。
2017年度の名人戦、稲葉挑戦者との対局の、AbemaTVでの放送時に解説陣が話題にしていました。
佐藤名人は対局中、あぐらで座った状態から身体を折り畳み頭が座布団にくっついたような体勢で手を読みます。
ちょうど柔軟体操の、「前屈」みたいな感じです。
加藤一二三先生との対局でもやっていました。
名人戦のAbemaTV中継に聞き手として出演した山口恵梨子女流二段は、この「前屈姿勢」を見て驚いていました。
解説者の先生に、「佐藤名人が、凄い前傾姿勢ですよ!」と感想を伝えていました。
同じ第75期名人戦の別の番勝負で、AbemaTV中継の聞き手をつとめた井道千尋女流の表現も印象に残りました。
井道女流は名人の姿勢を、「丸まっている」と表現しました。
解説の西尾先生も同意して、「よくみる佐藤名人の丸まっている体勢ですね」というようなコメントを返していました。
「凄い前傾姿勢」もいい響きですが、「丸まっている」は、本質を一言で言い表したシャープな表現ですね。
井道女流は解説の際も鋭い手を指摘して、西尾先生を感心させたりもしていました。
さらに井道女流は、名人戦の後の、2017年6月28日に女流二段に昇段しています。
おめでとうございます^^
AbemaTV将棋チャンネルは、もともとは将棋ファンでなかった層もターゲットにしています。
そのため、勝負の内容そのもの以外についても楽しい話題をしてくれます。
ですので、プロ棋士たちの盤を見ないで考える仕草が話題になったのは必然性があります。
でも、どうして「炎の7番勝負」では話題にならず、「魂の7番勝負」で初めて話題になったのでしょうか?
一つの理由としては、「炎」の方は中学生棋士の藤井四段が主役で、しかもスター棋士も登場する企画なので、それ以外の話題がたくさんあったことが考えられます。
そしてなによりも、藤井四段の活躍があまりにも素晴らしかったので、将棋の解説にも熱が入っていたことが大きいです。
でも、他にも理由はあると思います。
その理由とは、「炎の7番勝負の」登場の棋士は、盤から視線をほとんど外さない棋士だったから、です。
少なくとも、私が放送を見た場面では、皆さんそういうタイプでした。
唯一といっていい例外は羽生先生で、脇息に体を預け、目を閉じて考えるシーンがありましたが。
炎の7番勝負の主役の藤井四段は盤にくいいるようにして一生懸命に指し手を読んでいました。
実際、藤井四段の前傾姿勢が話題になりましたね。
読みに熱中していて、カメラの存在を忘れてしまうほどでした。
そして、名人戦の挑戦者だった稲葉八段も、前傾姿勢で盤を一生懸命見て読むタイプのようでした。
もちろん、ときどき上を見上げるような動作はあったと思いますが。
さらに言えば、稲葉八段が水を注いで飲むシーンは、妙に格好良いです。
丸まって考える佐藤名人と、前傾姿勢の稲葉八段という、互いに対照的(?)な対立構図は、前回の名人戦の名場面と言ってよいと思います。
もちろん、佐藤名人が普通の前傾姿勢になって考えるシーンもありました。
さすがは名人で、普通の姿勢も絵になりますね。
ともかく、藤井四段と稲葉八段は、似たようなスタイルで次の一手を考える棋士です。
NHK杯将棋トーナメントでは、この二人がぶつかっています。
放送日は12月10日です。
名人に後一歩のところまでせまった稲葉八段相手に、藤井四段は勝てたのでしょうか?
竜王戦ももしかしたらフルセットまで行くかもしれませんし、2017年は、終盤まで将棋が面白いですね。
いかがでしたか?
今回はプロ棋士の対局姿と脳内将棋盤について書きました。
我々アマチュアは当然、残念ながらプロの脳内を除くことはできません。
でも棋士が脳内将棋盤を使っている証拠は、色々な仕草の中に現れています。
でもそういう要素に注目していくと、将棋観戦もより一層楽しくなってくるかもしれませんね^^